大野和士の『炎の天使』2018 Prokofiev The Fiery Angel

配信終了:2020年04月20日 23:59

オペラ

  • 2時間15分
  • 2018
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悪霊に取り憑かれた美しい女を救えるのか!?大野和士が指揮した2018年エクサン=プロヴァンス音楽祭の注目公演。これが大野の「宿命のオペラ」だ。  中世のドイツを舞台にしたオカルト映画のように不気味な神秘主義のオペラ『炎の天使』は、セルゲイ・プロコフィエフが20歳代の終わりから30歳代半ばにかけて作曲した作曲家中期の作品です。2018年7月、フランスのエクサン=プロヴァンス音楽祭で、大野和士指揮によって新演出上演された公演の模様をお届けします。ポーランド国立歌劇場、ノルウェー国立オペラ・バレエ団との共同制作によるプロダクションです。 『炎の天使』は、プロコフィエフがアメリカ亡命時代に自ら台本執筆に着手。ヨーロッパに戻りバイエルンやパリに滞在していた時期に完成しました。1928年に全曲から第2幕を抜粋した短縮版がパリのサル・プレイエルでのコンサートで初演されたものの(セルゲイ・クーセヴィツキー指揮)、全幕が披露されるのはプロコフィエフの死後、1954年のパリ・シャンゼリゼ劇場での演奏会形式初演(シャルル・ブリュック指揮フランス放送フィルハーモニー管弦楽団 ※1953年説あり)、1955年ヴェネツィアのフェニーチェ劇場での舞台初演(ニーノ・サンゾーニョ指揮/ジョルジョ・ストレーラー演出)まで待たなければなりませんでした。その後欧米ではちらほらと上演されるようになりましたが、プロコフィエフの本国である当時のソ連では、宗教的な神秘主義の作品が受け入れがたかったのか、ロシア初演はようやく1983年に地方都市のペルミ歌劇場で行なわれました。1991年、サンクトペテルブルクのキーロフ歌劇場(マリインスキー歌劇場)でワレリー・ゲルギエフが指揮した上演が、この作品が世界的に名を知られるようになったきっかけではありますが、当公演を振っている大野和士も、早くからこの作品を熱心に取り上げていた指揮者です。1993年には東京フィルハーモニー交響楽団の「オペラ・コンチェルタンテ・シリーズ」で日本初演を果たし、その後もベルギー・ブリュッセルのモネ劇場や、フランスのリヨン国立オペラなど、首席指揮者を務める団体で、いわば名刺がわりに『炎の天使』を指揮しています。ちょうどこの番組の公演のあとに行なわれたある座談会で大野は「自分の“宿命のオペラ”は?」と聞かれて、この『炎の天使』を挙げていました。「おそらく一番多くのプロダクションをやっている指揮者の一人。プロコフィエフのオペラの中ではマスターピースというような作品ですね」(前出の座談会より)。 (オペラのあらすじ)  16世紀のドイツ。騎士ルプレヒトはある宿屋で悪霊に取り憑かれて苦しむ若い女レナータに出会う。彼女には少女の頃から、守護霊として、輝く金髪を持った「炎の天使」マディエルが付いていたという。いつしかレナータは彼を性の対象として見るようになるのだが、ある日マディエルは姿を消してしまった。レナータはやがて、出会ったアンリ伯爵がマディエルの化身だと直感し接近するが、アンリはそれを認めようとせず、彼もまた姿を消す。そうして彼を探しているうちに悪霊に取り憑かれ苦しむようになったのだというのがレナータの話。助けを請う彼女を愛したルプレヒトは、魔術を習うなどして協力。現れたアンリ伯爵に決闘を挑むが、返り討ちにあって瀕死の重傷を負う。ところがレナータはルプレヒトの愛を受け入れることなく、さらに妄想をつのらせて修道院に入ってしまった。レナータに憑いた悪霊が修道院全体を飲み込むのか、他の修道女たちも集団的な幻影に取り憑かれる。異端審問官が到着し、彼女たちと激しく対決。最後はレナータに魔女として火あぶりの刑が言いわたされる。  終幕の悪魔と人間の対決シーンの音楽は、プロコフィエフの真骨頂ともいえるすさまじさです。全幕がその頂点に向かって突き進んでいるといえるでしょう。大野和士がパリ管弦楽団から引き出す、ほとばしるようなエネルギーの激流が、作品の緊張感をさらに高めています。  歌手陣では、なんといってもレナータ役のアウシュリネ・ストゥンディーテの熱演が光ります。ほぼ出ずっぱりといってもよいかなりの難役。しかもこの演出では、下着姿でのベッドシーンなど、体当たりの演技も求められています。  ポーランドの演出家マリウス・トレリンスキは物語の舞台を現代に置き換えました。オペラ冒頭、16世紀のバイエルンの宿屋は、都会の片隅のうらぶれた安ホテル。ホテルのバー・カウンター(カウンターに突っ伏して寝ている男をよく見ると、後で登場するメフィストフェレスです)の横で少年がお絵描きをしながら見ているテレビは、なぜか日本の怪獣映画『ガメラ』です(1965年大映の第1作)。日本人の大野の指揮だから、ということなのでしょうか?しかし演出上の最も大きな「仕掛け」は、炎の天使マディエル(黙役)と最終幕の異端審問官を同一人物として設定していることです(歌手はファウスト役も兼任)。レナータは、愛し探し求めた男と対決し、裁かれ、魔女として死んでいく。なんとも救われないエンディングです。  レナータが自傷癖のある女性として描かれているため、全幕にわたって流血シーンも多く、ヴィジュアルはややショッキング。ご注意を。 [演目]セルゲイ・プロコフィエフ:歌劇『炎の天使』(全5幕7場) [指揮]大野和士 [演出]マリウス・トレリンスキ [舞台]ボリス・クドリツカ [衣裳]ガスパール・グラールナー [照明]フェリーチェ・ロース [映像]バルテク・マチアス [振付]トマシュ・ウィゴダ [出演]アウシュリネ・ストゥンディーテ(レナータ/ソプラノ)スコット・ヘンドリクス(ルプレヒト/バリトン)アグニエシュカ・レーリス(占い師、幻影/メゾ・ソプラノ)アンドレイ・ポポフ(メフィストフェレス、アグリッパ・フォン・ネッテスハイム/テノール)クシシュトフ・バチク(ファウスト、アンリ(ハインリヒ)伯爵 、異端審問官/バス)パヴロ・トルストイ(ヤコブ・グロック、医者/テノール)ルーカシュ・ゴリンスキ(マトフェイ・ヴィスマン、ホテルの主人、第二のヤコブ・グロック、使用人/バリトン)ベルナデッタ・グラビアス(ホテルの女主人/メゾ・ソプラノ)ボジェナ・ブイニツカ(修道女1/ソプラノ)マリア・スタシアク(修道女2/ソプラノ) [管弦楽]パリ管弦楽団 [合唱]ワルシャワ・オペラ合唱団 [収録]2018年7月15日、エクサン=プロヴァンス、プロヴァンス大劇場(エクサン・プロヴァンス音楽祭、ライヴ) [映像監督]フィリップ・ベジア ■字幕/2時間15分(番組枠)

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